宇宙刑事シャイダー音楽集
「不思議ソング」ハプニング
 「不思議ソング」に人気があるという。このことを初めて知らされた時、私にとってはやや意外であり、不思議でもあった。ファンの間で話題になっているこの曲は、私たち制作陣内でお多くのハプニングをひき起こし、様様な話題を提供してくれた。

 実は、この歌の作曲を頼まれた当初、私はやや困惑気味であった。ドラマにおけるこの曲の役割が余りにも大きく、今迄に例のない性格のものだったからである。

 プロデューサーの吉川氏、折田氏、監督の井沢氏とは数回の打ち合わせを行った。このジャンルの作品は初めてという気鋭の沢井監督の意気込みと熱意にはただならぬものが感じられ印象的であった。「フシギな感じを出して欲しい。ブキミではなくてフシギですよ。」監督の熱っぽい説明を聞いているうちに、私も分ったような気持ちになり、やる気満々になった。(沢井監督は、それこそフシギな説得力の持ち主である。)フシギな感じを出すには、先ず音階から考えていこう。中近東風音階とドリア旋法がいい。ドリア旋法は、ヨーロッパの古い教会旋法であるが、最近では、ロック、ポップ等でしばしば使われている。マイケルジャクソンの「スリラー」もその一例だ。

 方向さえ決まれば、あとはアッと言う間に作曲完了。所で、第一話で、不思議ソングに合わせて踊るシーンがあるとのこと。コロムビアでの録音は決定していたが撮影には間に合わない。やむをえず、私が自宅でテンポ合せのためのガイド用録音テープを作ることにした。歌手は私自身、伴奏は軽便なヤマハポータサウンド。私の歌には不満の個所もあったが、時間もないのでそのまま渡した。映画のダビングの際、コロムビア録音の本物にすりかえればよいのだ。コロムビア録音の方は、間もなく私の編曲、こおろぎの歌で完了。ダビングにはギリギリ間に合わせた。ダビング終了後、折田氏から電話があり、何と私が歌った方のテープを使ったというのだ。監督を始め現場の全員が意見一致で決定したとのこと。私は「それは困る。何とかなりませんか」としつこく迫ったが、後の祭りであった。

 滅多に起こらないような珍事が、起こってしまったのだ。やはり「不思議ソングの持つ魔力のなせるわざか………」などと下らない妄想にふけっても仕方がない。監督の意図は分らんでもないのだ。練習不足の私のやや間のぬけた声(昔はもう少しマシな時もあったのだが)。手抜きのために使ったと言われても仕方がないヤマハポータサウンドの安っぽく薄っぺらい音色とリズム。これが逆に、敵方の不思議さを出すのにベターであったのかもしれない。

 実は、不思議ソングを始めとして、「シャイダー」の音楽には、他にも意外な出来事が起こったのだ。まず不思議ソングについてもう一つ。先日、自宅のテレビで「シャイダー」見ていた時のこと。敵が仕組んだレストランでピアノソロによる不思議ソングが流れたのだ。流麗なピアノで、とても印象的であった。しかし、私が録音したBGMの中にはピアノソロはない。恐らく、私の知らない間に、コロムビアの木村ディレクターが別のLPを企画しそれ用の録音が流用されたに違いないと勝手な推理を行った。後日木村氏に問い合せてみると「私は知りません」とのこと。「おかしい、不思議だ。」あのよどみなく美しいプレイ。しかもアレンジまで施してある。一体誰がやったのか。選曲の村田君に聞くしかない。早速村田君に電話。「僕のワイフが弾きました。」という返事。意外中の意外であった。

 次に、不思議ソング以外のハプニングを一つ。先に出た「ヒット曲集」の中の「シャイダーブルー」で6声部の男声コーラスが、驚異的なハイトーンを含んだ魅惑のハーモニーを聞かせてくれる。これは何と、編曲の田中公平氏が一人で多重録音したものなのだ。予定していたコーラスのメンバーが都合で来られなくなり、歌には自信があるという田中氏がひきうけてくれたのだ。

 ともかく「宇宙刑事シャイダー」では、作曲家がソロボーカルを、編曲家が1人でコーラスを担当、(選曲家の奥さんがピアノソロをプレイするという)ハプニングが続出したのだ。ある友人に話した所、彼は「そのうち監督が作曲し、プロデューサーが歌い、作曲家が出演するなんてことになるんじゃないですか。」と言って笑った。

「宇宙刑事シャイダー音楽集」(CQ-7089)より
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